情けない人たち

  • 「普通の家族」フィリピン/2016/107分/監督:エドゥアルド・ロイ・Jr

『普通の家族』 | 第17回「東京フィルメックス」

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私たちは生活の中で正直な気持ちを隠して生きている。誰かれに自分が思ったことをそのままぺらぺら話す人なんていない。大人になればどんどんそれが加速する。でもそれが人間っぽさでもあるんじゃないだろうか。

誤解を恐れずにいえば、この作品に登場する人々はみんなものすごく動物っぽい。自分の子ども、それもまだ生後1か月にも満たない赤ん坊がさらわれたら、私だったらその数日後にセックスなんて、とてもじゃないけどできないよ!

 

親切なふりをして近づいてきたゲイに騙され、子供をさらわれたジーンとアリエスのふたりはそれぞれ16歳と17歳。フィリピンの街中で暮らすいわゆるストリートチルドレンだ。子どもを取り戻すために二人はあらゆる手をつくして探そうとするが、その弱みにつけこんで、様々な立場の「大人」があの手この手で彼らをひどい目に遭わせてくる。でもただただやられっぱなしの二人ではない。観光で訪れた外国人や、富裕層の学生グループにスリを働き、万引きは当たり前。私の感覚では到底理解のできない言動が、まるで「当たり前」のように人々の中に根付いているのだ。そんな調子なので、冷静に考えればむごい仕打ちを受けている二人なのだが、家(といってもビルの軒下)に帰れば大声でののしり合い、セックスもする。ただただかわいそうにはとても思えないのだった。みんなそれぞれに悪いことやひどいことをしていて、みんな途方もなく情けない。お金を持つ者、立場を持つ者、それらを持たない者、それぞれにみんな生きるだけで精いっぱいなんだもの。

 

フィリピンの街は、東京のそれと比べて、汚くて湿気が多くて明らかに不潔だ。でも彼らは、生きている実感を、東京に生きる人々、少なくとも私なんかよりもよっぽど感じているように見えた。周りを気にしないでわめき散らすほどの感情の爆発や、きれいごとだけではなく、どんな手を使ってでも守りたいと思えるものって私の人生にはきちんと存在しているのだろうか。ふと帰り道に思った。情けない人生を、もっと自分の体でしっかり感じながら過ごしてみよう。